神戸布引ロープウェイのハーブ園山頂駅-摩耶山・掬星台間の想定延伸ルート上でドローン撮影した神戸の夜景(神戸市提供)

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更新日: 投稿者: 神戸新聞社

「1千万ドルの夜景」へ気軽にアクセス 神戸布引ロープウェイの延伸、本格協議 ハーブ園-摩耶山・掬星台

 神戸市が、JR新神戸駅から山側へ延びる神戸布引ロープウェイを「1千万ドルの夜景」と称される摩耶山・掬星台(きくせいだい)につなぐ構想を掲げ、延伸ルートの実現に向けて国と本格的に協議を始めたことが分かった。新たな交通アクセス手段は、神戸を特徴付ける六甲山地に市民が気軽に足を運べる環境を生み出し、神戸空港の国際化によるインバウンド(訪日客)需要も高めると判断した。

 掬星台は神戸市灘区の摩耶山上にある関西屈指の夜景スポット。公共交通機関では、そばに摩耶ロープウェー「星の駅」がある。ただ、阪急王子公園駅北約1キロの「摩耶ケーブル駅」からケーブルカーとロープウエーを乗り継がなければならず、都心部の三宮からはバスを含めて約1時間かかるため、行きにくさが指摘されている。

 そこで市が目を付けたのが、神戸布引ロープウェイだ。新神戸駅近くの「ハーブ園山麓駅」と、観光施設・神戸布引ハーブ園がある山上の「ハーブ園山頂駅」を結んでおり、山頂駅から星の駅までロープウエーを延伸すれば、観光インフラの整備に寄与しつつ、利便性の高さから採算性を見込めると考えた。

 六甲山・摩耶山エリアはバブル期に企業の保養所が軒を連ね、1994年の観光入り込み客数は732万人に上った。だが、阪神・淡路大震災が起きた翌95年は225万人に激減。近年は建物の新築、改装に対する規制緩和で民間投資が増えつつあるとはいえ、直近の2023年は183万人と往年に比べて低水準にある。

 市幹部は「市内の子どもはかつて学校行事で六甲山へ出かけていたが、今となってはその機会はあまりない。登山愛好家でもない市民には足が向きにくい場所になっている」とみる。

 延伸ルートの想定エリアは、環境省が管理する「自然公園区域」。開発は原則認められないが、市は整備費を概算で約90億円と見積り、同省は協議に応じる姿勢を示した。市は都心からのアクセス性を高めれば自家用車の往来を減らすこともでき、持続可能な開発目標(SDGs)に資すると見込む。

 「全国に類例がないほど都市に近接した六甲山は市民の財産。豊かな緑を誰もが気軽に親しむには交通網の充実が欠かせない。事業化に当たっては貴重な動植物への影響も十分考慮し、国の理解を得たい」

■利用者数増で黒字可能 神戸市、3案から採算検討

 神戸市は摩耶山上へのアクセスを改善する複数の案を検討し、都心の神戸布引ロープウェイを延伸させる新ルートが妥当との判断に至った。

 他に検討した案は、摩耶ロープウェー虹の駅から掬星台まで乗客を運ぶゴンドラの大型化、次に「まやビューライン」(摩耶ケーブルと摩耶ロープウェーの総称)の全面ロープウエー化だった。市はこれら三つの案の採算性を見極めるため2023年6月、約4千人にウェブアンケートを実施し、収支が見込めるかどうかを分析した。

 結果として、ゴンドラの大型化は年間1億1千万~1億4千万円の赤字となり、全面ロープウエー化は1億7千万~2億4千万円の赤字で推移した。利用者数が上振れしたと仮定しても、黒字化は困難だった。

 一方、神戸布引ロープウェイの延伸ルートは2千万~9千万円の赤字が見込まれるものの、利用者数を増やすことができれば2億8千万円の黒字が可能と試算された。市が赤字を補填(ほてん)するまやビューラインを含めた収支でも、合計7千万円の黒字と算出された。

 市が21年に設置した産学官合同会議「六甲山・摩耶山の交通のあり方検討会」は昨年2月に報告書をまとめ、新ロープウエー整備が望ましいと提言。市が検討を進める摩耶山上の再整備で利用者数のさらなる増加が期待できるとした。

 市交通政策課は「収支の試算では三宮再整備や神戸空港国際化に伴う集客の波及効果を考慮していない。大きく変化する神戸の今後をかんがみれば、想定を上回る可能性は十分ある」と話している。

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