関西万博、兵庫県のパビリオンは建設費ゼロ 150を超えるプログラムで誘客目指す取り組みと狙いは
2025年の大阪・関西万博で参加国のパビリオン建設の遅れが問題となる中、隣県の兵庫県は「フィールドパビリオン」を掲げ、新たなハコモノを建てない誘客を目指している。県は「県全体がパビリオン」と訴えるが、それってどういうこと? 万博に向けた兵庫県の取り組みを取材した。
小さな漁船は波しぶきを上げて進む。乗船してから約20分。甲板から見上げると、その奇岩は一層大きく見える。
淡路島南東の岩礁にそびえ立つ「上立神岩」。矢尻のような形をした高さ30メートルの巨岩は、国生み神話ゆかりの離島、沼島(南あわじ市)を巡る「おのころクルーズ」最大の見どころだ。
島の周囲約10キロを約40分かけて漁船で巡るクルーズは3月、「ひょうごフィールドパビリオン」の中でも、兵庫県が特に情報発信に注力する「プレミア・プログラム」に選ばれた。
地元の漁師と移住者らが協力して10年前から続けている取り組みだが、クルーズの事務局、小野山豪さん(44)は「県のPR効果は大きい。万博本番に向けて旅行会社の問い合わせも増えてきている」と期待に胸を膨らませる。
県はほかにも、西脇市の播州織ブランド「タマキニイメ」による工房見学体験や、丹波篠山市の丹波焼の里を訪ねるツアーなど計5件を「プレミア」に選定し、情報発信に力を注ぐ。
■ ■
「フィールドパビリオン」とは、19世紀末にヨーロッパで提唱された考え方だ。建物や自然などを「展示物」と捉え、来場者が現地の文化や民俗を体感できるようにする。
今回、兵庫県が理念に据えたのは「持続可能な開発目標(SDGs)」。パビリオンの展示物は、県民から募集した地域活性化の取り組みで、五つの「プレミア」と「地域プログラム」があり、既に合計156の地域体験プログラムが認定されている。
県万博推進課は「万博は大きなチャンスだが、一つのきっかけでしかない。大事なのは万博後。県民が持続可能な地域活性化の取り組みを続けていくことが最も大切だ」とする。認定を受けても補助金は出ないが、地域や団体からの申請数は増え続けており、最終的に200程度になる見通しという。
フィールドパビリオンはハコモノを必要としないため、当然費用も抑えられる。万博会場となる夢洲の建設費は当初予定の1・8倍となる2300億円程度まで増額することが見込まれているが、兵庫の場合は建設費ゼロ。23年度当初予算にプロモーション費用などで約1億8千円を計上しているだけだ。
一方で、象徴的な建物がないことからインパクトに欠ける上、多すぎるプログラムは埋没する危険性も併せ持つ。このため、県は地域間の連携を強化し、日本酒や農業などテーマごとに「物語性」を持たせてPRすることを構想。目標とする観光消費額は、従来の1割増の約50億円で、「学びや探究心の強い人たちに刺さるストーリーを提案していきたい」とする。
「地域を活かすフィールドミュージアム」などの著作がある長崎国際大の落合知子教授は「フィールドパビリオンは地域文化資源の保存と活用の場として地域おこしにもつながる」と意義を強調。その上で、兵庫の取り組みの成否について「多彩なプログラムを、旅行者が選びやすく分類することが必要だ。交通手段のサポートも必須。教育活動にも寄与できるようになれば、事業の継続につながるはず」と指摘している。