<ひとはく研究員だより>兵庫県立人と自然の博物館・三橋弘宗主任研究員 保存科学 標本技術、ヒアリ対策にも
博物館の唯一無二の特徴は、さまざまな資料を集めて長く保存して活用することです。保存科学と言われる研究領域で、腐らず、壊れずに「モノ」を生かす技術を使って、さまざまな人々に「モノ」の価値を伝えて活用してきました。まさにSDGs(持続可能な開発目標)そのものです。
私の研究テーマの一つは、こうした博物館資料の多様な活用を支える技術の開発と体系化です。デジタルを駆使した技術や、高分子化学を使った害虫制御や保存技術など多岐にわたります。中でも、サラサラの特殊な樹脂を染み込ませて触れる標本を作る技術はユニークで、当館だけでなく各地の博物館の展示物も多数作成しました。
しかし、これらの技術は博物館や教育分野だけでしか活用してきませんでした。「モノ」を長く保存する技術は、きっと社会のさまざまな場面で活用できるだろうと考えて活用方法を模索したところ、樹脂を活用した保存修復は意外にも多様なニーズがありました。食品サンプル作成やドライフラワーの保存、コンクリート修繕、建物の雨漏り修理(我が博物館も)、木材の保存修復、農業用水路の漏水補修、道路の目地や亀裂の補修や防草対策、かやぶき屋根の高性能化など、社会のさまざまなところで活用することができました。
最も技術が活用されたのは、港湾地区でのヒアリ対策でした。舗装の亀裂に雑草が繁茂して、その隙間が好適地となっています。この部分にサラサラで弾力性があって少し膨張する特殊樹脂を開発して注入することで、手軽に雑草と外来生物の防除を同時に実現することができました。この技術は港湾地区だけでなく、三宮駅周辺や国道の雑草対策にも利活用されています。また、少しユニークな利用が、古いかやぶき屋根を使って作成した「BE KOBE」モニュメント(神戸市北区)での樹脂活用です。かやぶき職人チームとのコラボで、伝統文化との新しい融合となりました。
技術を水平展開することで、多様な異分野交流も生まれ、新たな改良や技術も進展します。そして博物館活動の幅が広がるほか、新産業の創出にもつながります。標本作成の技術を通じて、博物館が多様な分野で地味に貢献できればと考えています。