今夜の夕食、エビや魚は「団地産」!?そんな日が間近かもしれない神戸での実証実験
「今日の晩ご飯は団地産のエビを使って、エビフライにしようか」。家庭でこんな会話をする日が、そう遠くない時期にやってくるかもしれない。神戸市垂水区の新多聞団地で、都市再生機構(UR)などが空き室を転用してバナメイエビやヒラメ、カワハギの陸上養殖の実証実験に取り組んでいる。汚水を出さない完全閉鎖型の養殖技術を生かし、増加する空き部屋の有効活用や郊外団地の活性化を目指す。
実験の舞台となっているのは、団地の商業施設などが集まるエリアの一角にある2階建ての建物だ。かつては、クリニック兼住宅として使われていた。
玄関を入ると、クリニック時代に待合室だった部屋に幅約2メートル、奥行き1・5メートルの巨大な水槽が現れる。一部の壁は撤去されたが、間取りはほぼ当時のまま。1階部分(約135平方メートル)に設置された計5基の水槽で、バナメイエビ約千匹と、カワハギとヒラメ約100匹ずつが育てられていた。
実験は昨年11月に始まり、当初10センチ前後だったカワハギとヒラメの稚魚は15センチ前後に、5センチ前後だったバナメイエビは倍近くまで育った。出荷可能な大きさになるまでにバナメイエビは半年、カワハギとヒラメは1年程度かかるという。
■「地産地消」へ
この実験は、URと日本総合住生活、滋賀県の陸上養殖システムを手がける「ウイルステージ」の3者が共同で取り組む。
「完全閉鎖循環方式」と呼ばれる養殖システムで、簡易水槽に人工海水を循環させる。魚のフンや食べ残しをバクテリアが分解するため、水の入れ替えの必要がない。海から遠い土地にも設置でき、場所を選ばない点でも持続可能な開発目標(SDGs)に対応している。
URによると、同団地は1974年度に誕生した91棟2564戸の大型団地。開発から半世紀近くがたち、居住者の高齢化や人口減少、施設の老朽化など、いわゆる「オールドニュータウン化」が進む。
近隣に大型商業施設ができた影響で、団地中心部の商業エリアのにぎわいも薄れている。空き室を活用した「団地産」が実現すれば、「地産地消」の促進も期待できるため、URは陸上養殖を地域活性化の試金石としたい考えだ。
■地域人材の活用も
日々の水槽管理には、地域の人らも協力している。水槽の水温調整や餌やりは自動で行われるため、通常の管理は蒸発分の注水や餌の補充程度。専門の知識や技術は不要で、地域のシルバー人材が活躍している。
URは養殖した魚類の試食会などを企画し、住民らの交流の機会をつくる。担当者は「養殖を軸にしたさまざまな取り組みで、地域の活性化につなげたい」と力を込める。
一方で、水の浄化設備に関する高度な技術や電気代、酸素代などの費用がかかるため、費用対効果が今後の課題となる。実証実験は、来年3月までを予定し、結果を検証した上で、事業化を検討するという。