公開講座「難民・移民をめぐる国際協調の行方~わたしたちに何ができるか~」
神戸大学大学院国際協力研究科准教授 赤星聖さん
日本の国際支援を「与える」という側面で見ると、開発途上国に先進国の中で第3位の援助を贈与、貸付している。一方、「受ける」という側面では、戦後復興時に新幹線や高速道路の建設で世界銀行から貸付を受けた。また阪神・淡路大震災など大規模災害時に世界各国から繰り返し支援を受けており、アジアの災害大国では「お互い様」の精神が根付く。難民や気候変動、感染症といった国際的な課題は、複数国で対応した方が効果的・効率的でもある。
移動する人々には多様な背景がある。例えば、留学生も移民に分類される。また、アジア・アフリカ地域を中心に、移動を強制された人々の数は、右肩上がりに増え、現在は世界全体の67人に1人、12億2600万人が紛争や迫害で周辺国や国内で避難している。なお、2023年の日本の難民受け入れは、ミャンマーやアフガニスタンなどからの303人にとどまる。
欧米諸国で厳しい移民政策を訴える政党・政権が台頭しているのが気がかりだ。特に1月に就任したトランプ米大統領はメキシコ国境の壁建設をはじめとした強硬な移民政策を次々に打ち出し、留学生向けの奨学金停止などは日本にも影響が及ぶ。
国際協調の取り組みが放置されているわけではない。16年には難民受け入れ国の負担軽減などを盛り込んだ「グローバル・コンパクト」が難民及び移民に関してそれぞれ国連総会で採択された。ただ中央政府が存在しない無秩序な構造下では、理念的に合意していても実行は難しい。圧倒的な国力を背景に国際秩序を形成してきた米国の不満も大きく、トランプ大統領は「ただ乗りは許さない」と強い意思を示す。少なくとも任期中は国際協調が困難だろう。
こうした中、NGO(非政府組織)や多国籍企業などさまざまな組織がパッチワーク状に問題解決に取り組み、相互学習するフォーラムを開いている。国内外で支援を行う日本発のNGOもある。「難民を助ける会(AAR Japan)」は地雷撤去活動にも取り組み、「ピースウィンズ・ジャパン」は医師がいるのが特徴だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の正式パートナーとして、店舗で回収したリサイクル商品を難民に届け、難民を雇用している企業もある。日本政府を監視して投票行動で意思を表したり、難民・移民支援に取り組むNGOや企業を資金面で後押ししたりすることなら私たちにもできる。
